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東京地方裁判所 平成9年(ワ)18969号 判決 1998年4月20日

原告

樋口米藏

右訴訟代理人弁護士

難波修一

兼松由理子

島養雅夫

寒竹恭子

向宣明

被告

株式会社東京都民銀行

右代表者代表取締役

西澤宏繁

右訴訟代理人弁護士

上野隆司

高山満

廣渡鉄

浅野謙一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の各物件について浦和地方法務局上尾出張所昭和五六年二月二六日受付第五六壱参号根抵当権設定登記の各抹消登記手続をせよ。

2  原告と被告との間で昭和五六年二月一七日締結された根抵当権設定契約に基づく根抵当権が存在しないことを確認する。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同じ

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、別紙物件目録記載の各物件(以下「本件物件」という)を所有している。

2  本件物件について、被告のため、請求の趣旨1記載の根抵当権設定登記(以下「本件登記」という)が存在する。

3  被告は、原告と被告との間で昭和五六年二月一七日締結された根抵当権設定契約に基づき根抵当権を有すると主張している。

4  よって、原告は、被告に対し、所有権に基づき、本件登記の抹消登記手続を求め、また、本件物件について被告の根抵当権が存在しないことの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

全部認める。

三  抗弁

1  被告は、原告との間で、昭和五六年二月一七日、原告所有の本件物件について、左記の内容の根抵当権設定契約(以下「本件根抵当権設定契約」という)を締結した。

(一) 極度額 金一五〇〇万円

(二) 被担保債権の範囲 銀行取引、手形債権、小切手債権

(三) 債務者 東京都台東区竜泉二丁目六番一四号

日新教図株式会社

2  本件登記は、本件根抵当権設定契約に基づいて登記された。

四  抗弁に対する認否

全部認める。

五  再抗弁及び原告の主張

1  訴外日本生命保険相互会社(以下「訴外日本生命」という)は、昭和五六年五月二五日、訴外日新教図株式会社(以下「訴外日新教図」という。)に対し、金二億二〇〇〇万円を、利息年8.6パーセント(年三六五日の日割計算)、同年九月三〇日を第一回とし、以後二箇月ごとの各末日に二〇〇〇万円を支払い、同五八年五月三一日に残額を完済する、遅延損害金年一四パーセント(年三六五日の日割計算)との約定で、貸し付けた。

2  被告は、昭和五六年五月二五日、訴外日新教図との間で、前項の債務につき被告が保証する旨の保証委託契約を締結した。

3  被告は、昭和五六年五月二五日、訴外日本生命との間で、前項の契約に基づき、第1項の債務につき連帯保証契約を締結した。

4  被告は、訴外日本生命に対し、昭和五七年一月二七日、前項の保証債務の履行として、金一億七九八六万九八〇九円を支払い、被告は、訴外日新教図に対し、残元金一六八〇万〇三六九円の求償権(以下「本件債権」という)を有していた。

5  訴外日新教図は、昭和五七年、東京地方裁判所により破産宣告を受け(東京地方裁判所昭和五七年(フ)第九号事件)、同六一年四月二三日、訴外日新教図に対し破産終結決定が行われ、同年五月二一日、その旨の公告が行われた。

6  右破産終結決定公告の日の翌日である昭和六一年五月二二日から起算して一〇年が経過した。

7  本件根抵当権の被担保債権である訴外日新教図に対する本件債権は、同訴外人の破産終結決定の公告から一〇年を経過したことにより時効により消滅した。その結果、本件根抵当権も消滅することになった。

8  原告は、平成九年九月三〇日に被告に送達された本件訴状において、右時効を援用する旨の意思表示をした。

六  再抗弁及び原告の主張に対する認否

1  再抗弁及び原告の主張1ないし6の各事実は認める。

2  同7は争う。本件根抵当権の債務者である訴外日新教図の法人格は、破産終結により消滅し、その結果、本件根抵当権の被担保債権である本件債権も消滅するが、このような場合、本件根抵当権は独立の負担となって存続することになると解すべきであり、根抵当権の消滅時効期間は二〇年であるから、本件根抵当権は、いまだ時効により消滅していない。

第三  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録のとおりであるから、この記載を引用する。

理由

一  請求原因事実及び抗弁事実は、すべて当事者間に争いがない。

二1  再抗弁及び原告の主張1ないし6の各事実は、当事者間に争いがない。

2  本件の争点は、被告の訴外日新教図に対する本件債権につき、消滅時効が完成し、本件根抵当権も消滅しているか否かという点にあるので、この点について判断する。

法人について破産手続が開始された後破産終結決定が行われた場合、当該法人に残余財産がないときは、当該法人は、右破産終結決定のときにおいて法人格を喪失し、当該法人に対する債権も右破産終結決定のときに消滅するものと解すべきである。

他方、破産法三六六条の一三、会社更生法二四〇条二項の趣旨に鑑み、破産終結により債務者の法人格が消滅して債務が消滅した場合といえども、右債務を担保するために設定された根抵当権の効力に影響を及ぼさないと解すべきである(なお、本件根抵当権の担保すべき元本は、債務者である訴外日新教図が破産の宣告を受けたことにより、確定したことはいうまでもない。)。

そして、この場合、右根抵当権は、被担保債権である本件債権の消滅時効期間に従い一〇年で消滅するか、民法一六七条二項により二〇年で消滅するかについては、前記のとおり、破産終結決定により法人たる訴外日新教図は消滅し、同訴外会社に対する本件債権も消滅して、被担保債権である本件債権を観念する余地はないから、本件債権の一〇年の消滅時効に従い、附従性の原則により根抵当権も一〇年で消滅すると解することはできず、本件債権の消滅に影響を受けることなく、独立して存続することになった根抵当権は、原則に従い民法一六七条二項により二〇年の消滅時効によって消滅することになると解すべきである。

三  以上によれば、原告の本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官前田順司)

別紙物件目録<省略>

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